その11・・・銀行恐るべし

またしても アップするのに随分と時間が掛かりましたが、実は書くべき内容と言うか、それほど進展が無かったのです。
その間、物件の申し込みのための資料や手続き、さらに融資の申し込みのための開業計画や資料、書類作りとバイトに没頭しておりました。
前回お話した、健康と生活費、さらに自分の店の宣伝のビラも将来一緒に配ろうと言う一石三鳥のバイトである「ポスティング」のお話を少しだけします。

ポスティング で僕が周った地域は、主に関内周辺です。印刷屋さんが、直接雇っていて、自社のチラシを配らせるのです。そのお店が桜木町なので、だいたいその辺の地域を配ります。僕は昔から横浜界隈の事を良く知っている積りでしたが、全く足を踏み入れていない所に、またク僕の知らない世界があったのです。

ポスティングでは集合住宅、つまりマンションなどのビルが何と言ってもオイシいです。何処にどう配っても、1件4円。ならば一度に2,30件固まってポストが並んでいる方が良いに決まっています。渡された地図を見ると、だいたい大きな建物が密集している地域がわかります。

「うわ、この辺、すっげーオイシイじゃん!」

その日周る場所を地図で確認すると、大きな建物が沢山あるようでした。しかし、駅からは少し離れています。マンションの密集地域だろうと思いました。どこから配っても構わないので、まずは美味しそうな地域に直行しました。

*

しかしその辺りに着いて、僕はちょっと目を疑いました。
確かに沢山の高いビル(と言うかマンションっぽい建物)が並んでいますが、まず、どれもがとても古く、そして何より不思議なのは、この平日の昼間に、大勢の人たちが道 にあふれている事でした。
そのほとんどがまだ昼前なのに「酒」を飲んでいるのでした。道端に座り込んでいる人達もいます。その界隈に近づくにつれ妙な空気が流れていました。飲み屋もほとんど開 いています。スナックからも大声でカラオケを歌っている声が聞こえています。
もう一度言いますが、まだ午前11時です。ほとんどの人が5,60歳以上でか なり汚い格好をしています。
そう、そこはマンション郡ではなく、簡易宿泊所の密集地帯だったのです。ドヤ街とでも言いましょうか。ガラスが割れていて、もうゴーストビルと化してしまった建物もあります。 7,8階立てのマンション風の簡易宿泊施設がざっと30棟は固まっているあるのです。1泊2000円程度でテレビや布団など全て揃っています。駅から離れると割に新しい建物もありましたし 建設中のものもありました。
天気のいい中、皆旨そうに酒を飲み、酔っ払って結構楽しそうでした。道端やオープンカフェ風(?)になっている居酒屋とかで談笑しているのです。建物の横には「小便禁止」と言う貼り紙があちこちに貼ってあります。
こんな地域がこんなに身近にあるとは知りませんでした。

まあ、当たり前なのですが、残念だったのは、その沢山の簡易宿泊所には、入り口にたった1つのポストしかなかったのです。ポスティングとしてはとても効率が悪いです。それでも黙々と配る中、突然、長い行列に出くわしました。若者も並んでいます。ざっと200人くらいはいたでしょう。
(何だろう?)そう思って列の先へ行ってみると、小さな公園の様な広場に出ました。そこでは、大きな鍋がいくつか並んでいます。
そう、つまりどうやらそれは食事の配給のようでした。災害地などでのそれは、テレビでは見たことがある気がしますが、この様な形で目の前で現物にひょんな拍子に出くわすと、何ともやりきれな い気持ちになります。僕はその人たちをある意味蔑んだ目で見てしまいました。
しかし並んでいる人達には、普通で(当たり前)日常の一こまに過ぎないのです。談笑しながら楽しそうな顔。そんな余裕があるなら他人に頼らず働け、とか後で考えたり。。。複雑。

*

あと、さなぎの食堂と言う看板が目に入りました。看板にはNPO法人と書いてあります。さなぎに込められた想いは、(何時か孵化して蝶の様に羽ばたいて欲しい)と言うことでしょうか。
なんと昼食はすべて300円とありました。(丁度腹減ったし、せっかくだから、試しにここで食べてみるか)と思い、入ってみました。
もちろんあまり綺麗ではありません。壁一面に子供のクレヨンで書いた絵がいっぱい壁に貼ってあって、広さは立ち食いそば屋の倍くらい より広かったです。30席くらいでしょうか。
そこでは、結構いろいろなメニューがあり、なんと「うな丼」も300円だったのです。
そこで300円のうな丼を頼んでみました。お客さんはみな男性ばかりで、黙々と食べています。他の客を見るとどうやらお金を払っているのではなく、何かの券みた いなものを出していました。

奥のほうで「チ―ン」とレンジの音がして、しばらくすると300円のうな丼が出てきました。見た目は確かにうな丼です。しかし、食べてみると・・・。
あまり詳しい表現は出来ませんが、あの、全部食べることは出来ませんでした。

残してごめんなさい、と思いながら店を出て、先へ進むと、妙なおじさんに話しかけられたりもしました。

「十万くらいあんのけぇ?」信号待ちの時そういきなり話し掛けてきました。
意味不明な質問。
「は?」
「いや、何この地図?」
「あの、チラシをポストに入れているんです。」

「ああ、そう。金になるの?」
「いや、まあ1000枚で4000円です」
「俺も使ってもらっちゃおうかな」
でへへって感じで笑います。
「え?僕は使う側の人間じゃないですから何とも・・・」
「お兄ちゃん、大学でてんのけぇ?」
「はい、一応・・・」
「そうよのぉ。これは頭良くなきゃできねえよねぇ」
「いや、そんな事はないと思いますが・・・」
そんな会話をして、アホくさいので信号が青になると同時に足早に逃げました。

*

さて、本題に戻ります 。
物件の審査が済み、いろいろと特別な条件で契約を結べることになり、いよいよ融資の申し込みの段になりました。開業計画書を書き直し、何度もシュミレー ションしてみて、必要書類を全て揃えました。個人で一度断られているので慎重でした。そして、ビジネスローンセンターに電話しました。

「どうも、ご無沙汰しております。有限会社G-Flexの矢田と申しますが、融資の申し込み準備がようやく整いましたのでご連絡させて頂きました。つきましてはお時間を頂き、内容の方を確認していただきたいのですが」(完璧)

「ええと、ああ、G-Flexの矢田さんですか。どうもお世話になっております」(どうやら覚えていてくれたのか?)

融資担当者とは一ヶ月前くらいに1度きりしか会っていません。
僕は続けました。

「あの、実は以前とちょっと状況が変わりまして、あの、物件が別のものになったのです。以前お話していた物件は、オーナーさんとの条件が合いませんで、キャンセルしました。」

「ああ、あの看板とかの件ですか・・・」

融資担当の人は独り言のように言いました。その時僕はちょっと妙な気がしました。
(あれから一度も会ってないよなあ・・・。看板の件って、、、会ったときって、物件変わった後だったっけ?)
そんな疑問が頭をよぎりながら答えました。

「あ、ええそうです。それで、今度は西口に良い物件が見つかって、そこは条件が合いまして、そこでは契約承諾書を出してくれるので、物件が押さえてある証明になります。」

すると銀行の融資担当者は比較的明るめの声で言いました。
「ああ、そうですか。そこに決まったのですね。いいや、その11をいくらクリックしても見れなかったですから、どうなったのかと・・・」

「・・・???」(その11?。。クリック?。。。)

一瞬僕には状況が飲み込めませんでした。すると融資担当の人は続けて言いました。

「読んでますよ、「英会話コミュニティサロンができるまで」でしたっけ?」

「ええっ!?!」(どっひょーん!)

僕は文字通り大声で「ええっ!」と言ってしまいました。「そ、それって・・・」

「いや、以前お話を伺って、こう言う人ならホームページを持っているだろうと思って、探したんですよ。」

「(ま、まさか・・・)、ぜ、全部読まれたのですか?」

「はい、随分前から」

(愕然)
まさかそこまで調べるとは。銀行恐るべし。
その時の僕の気持ちは大変に複雑なものでした。この赤裸々な内容の日記を全て銀行の融資担当者に読まれてしまった事への後悔にも似た気持ち、それと同時に、

「いやあ、あれ読まれちゃったんですかぁ。・・・ありがとうございます。半分困っちゃったですが、でもなんか半分は嬉しいです。」

と思わず言ってしまい、本当に複雑な気分でした。融資担当の人は少し笑いながら、
「あんなに手の内明かしちゃっていいのかな、と思いましたが・・・」と言いました。

「いや、あの、あれは読んでいる人が面白いようにと、ちょっと作りが入っていたりして、あの、現実とはちょっと違うものでぇ・・・」どうあがいても言い訳にしか聞こえません。

アポを取り付けて電話を切った後、しばし絶望感が僕を覆いました。(今までやってきた事が水の泡だ。何でこんな日記 – 当時はブログって概念は多分無かった – を書いてしまったのだろう。。。トホホな感じ。。。)
と思いながら今もまだ書いています。

融資担当 の人は電話では多少笑いも入っていたかと思ったのですが、現実に会ってみると大変厳しく、ほとんど冗談は通用しそうにありませんでした。かなり詳細に渡っ て突っ込みが入り、さらに提出用の書類に関してとても丁寧に説明をして頂きました。
最後まで笑いは無しでしたが、帰りに僕を送りに銀行のドアを出た瞬間だけ、

「あの代表取締役がただの取締役になったところ、面白かったですね。思わず笑っちゃいましたよ」

と。

 

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