その7・・・養老保険

「ええ?! そりゃ無理だわ。無理無理。いやあ、それは無理よぉ!」
初めはあれだけ乗り気だったおばさんは、声高に無理を連発しました。
30分余りの説明で、僕はかなり○○エコーさんに有利な利益になる提案をした積りでした。毎日20人以上の客が見込めるだろう事、内装は僕の方の費用できれいにする事、休みである日曜は一日1万円で借りる事。どれもプラスになる事ばかりだと思いました。その代わり看板を出させて欲しいなどの要望もありました。
しかし、おばさんはそれを聞いて次第に難色を見せました。と言うよりきっぱりと断わってきました。何故かというと、そのおばさんは店の責任者ですがオーナーではなかったのです。つまり僕の説明で、自分の店が乗っ取られるような感じがしたに違いありません。
前日には協力者のAさんにも来てもらって、一緒に見ながら場所的に1階というのが良いし、中は見えるし、悪くないのではと言う事で交渉に来たのでした。
その後数分説得を試みましたが「それならどこかご自分でお店を借りたほうが良いんじゃないですか?」と。
(それが出来ないから相談してるんじゃん)口には出せませんでした。
「私、ちょっと予定があるからこれで」
とおばさんは席を立ちました。
(おい、ちょい、待て!)口には出せませんでした。
「うーん」しばらく僕は頼んだアイスコーヒーをすすりながら考えました。基本的におばさんが店を任せられているでしょうから、オーナーを探して直談判したところで、おばさんに相談するでしょう。
ちなみに以下が僕の提案内容です。誰か喫茶店を経営している人が読んでいたら連絡を。
興味ない人は飛ばして下さい

その後 カラオケボックスなどもチェックしました。Hさんのご提案で、最近カラオケボックスが不調なので、その空き部屋を利用して昔の「歌声喫茶」的に歌で英語の勉強をしてみてはどうか、というメールに返答しかねていましたので。たしかにカラオケボックスは夜9時以降がメインで、その前は平日は空き部屋はあるようです。
しかし、歌声喫茶 − ご存知無い方が多いと思うので、簡単に説明します。昔(今から40年以上前だと思います)流行った喫茶店の種類で、みんなで唄を歌う事が目的で来ます。ロシア民謡などを歌ったと僕の母は言ってました − の文化を僕等は知る由もなく、かなーり抵抗感があって(知ってるもの同志ならともかく、初めては)、誰も来ない気がしました。
それ以前に横浜駅近辺のカラオケは、そんなヒマではないらしいです。金土は早くからいっぱいだし、平日でも7時くらいからは十分入ってるらしいです。(ってか想像ですけど)。
歌声喫茶的に英語をやるのは、イベントとしてはいいかも知れませんが、毎日は無理な気がします。(やってないから分かりませんが)。レッスンに至っては他の部屋で歌って盛りあがっている中、不可能です。

○○エコーさんの特典

  1. 1日15人から20人の夜の時間帯の客(オーダー)が増える。
  2. 宣伝をかなりするので、○○エコーさん自体も宣伝になる。英会話サロンと言う事でも話題になると思います。こちらのお客さんとしてでなくても見にくるお客さんも多くいるはず。
  3. 休みである日曜に、定期的な利用料が入る。
  4. 18:00からの人件費の節減(うちらが働く)。
  5. 内装の改装費用が浮く(こっちで出す)。

こちらからの要望

  1. 平日はテーブルを3つ(各6名分)を 18:00から21:00まで占有させてください。占有コーナーを作る(日中は通常営業で使ってください)。
  2. 占有コーナー内に教材試聴用の棚を設置したい。あとテレビモニターも。
  3. 土曜は午後13:00より21:00まで。
  4. ラウンジのお客様は通常通り飲み物を注文します。(1日当たり15から20人の見込み)
  5. テーブルにお菓子を置かせて欲しい。
  6. 会計は喫茶と英会話サービスを別々にする。
  7. レジを別に置かせて欲しい。(コーナーの所に場所が欲しい)。
  8. 日曜も使いたい。(条件応相談)。
  9. (日曜はフリードリンクで1000円/h)
  10. レッスンテーブルは注文なしにして欲しい。
  11. テーブルホストはコーヒーおかわり自由でお願いします。(2杯分支払う)
  12. 月に一回、土か日曜にパーティーを行いたい。
  13. 外に看板を出させて欲しい。(昼間でも宣伝のため)。
  14. 内装を一部変えたい(費用はこちら負担)。
  15. スタッフは(特別時給500円とかで?)店員としても働きます。(これは要検討:テーブルに付く事も考えられる)
  16. ポイントカードシステムを入れたい。
  17. ドリンク半額券を発行します。差額は券と引き換えにてこちらで支払います。
  18. or
  19. ドリンク無料券を発行します。販促用なので割引き価格にて提供願います。
  20. ポイントをドリンク券にも換えられる。(こちらで支払います)。
  21. 電話は別途敷くか、または同じにする場合の対応をお願い致します。
  22. 基本的に1年ごとに、契約内容を見直す。


■やむを得ない理由で引き上げる場合の改装費用負担は時価として基本的には話し合いにより決める。

    例)
  1. ○○エコーさんの都合により1年以内で引き上げの場合半額
  2. 1年以内でこちらの都合により1年以内で引き上げの場合20%
  3. 2年目以降○○エコーさんの都合による場合30%
  4. 2年目以降こちらの都合により引き上げの場合10%
  5. 3年以降はどのような場合でも改装費の負担は全額こちら持ち

その後僕は別の喫茶店もあたろうかどうか迷いました。しかし、どうも同じ結果が待っていそうで、行く気になれませんでした。残るは秋葉原のカラオケバーか。考えて見ると、だいたい他人の店の中で商売やろうと言う事に無理がある気がします。
帰ってから何も案が浮かばず、2日ほど何もせず布団の中からほとんど出ずで寝てばかりいました。

「おんちゃん 「おんちゃん、わたしちょっと郵便局行ってくるから。これ崩してくる」
3日目の朝、そう言って母親は僕にある紙を見せました。母は未だに僕の事をおんちゃんと呼びます。
「何これ?」
「あんたの養老保険」
「ああ、いつか言ってたやつ?」
なんか去年郵便局の貯金で保険が付いてくるみたいな話をしていたのを思い出しました。
「崩すって、解約?」
「そう」
金額を見ると108万円です。これは僕名義のお金として僕が保険に入っているものでした。本来20年後に満期が来て幾らかお金が貰えるやつです。
「マジで?それって俺のため?いいの?」
「だってあんたがあんまり落ち込んでるから。・・・でもこれだけよ」
いや、なんとこんな隠し玉があったとは!「ありがとうございます、お母上」って感じでした。
銀行関連の書類以外はすでにそろっていました。以前に資産を親が買ってくれたらそれで資本金が出来ると思っていたからです。しかし、最終的には銀行に資本金を預けて、その証明書を出してもらわなければなりません。それにも52500円もかかりました。
現金265万円を3つの通帳からかき集め、出所が分かりにくいように、あちこち振り替えたりしました。それを見ながら銀行の融資担当の人は、
「あの、これは全部社長の口座ですか?」と尋ねました。
「・・・しゃ、社長?」
一瞬僕は辺りを見回そうとして、それが僕であることに気がつきました。
「あ・・・そ、そうだよ、君ぃ!」
ってな感じで思わず声が上ずってしまいました。生まれて初めてキャバレーの呼び込みのおっさん以外の人に社長と呼ばれた瞬間でした。うれしいよりも恥かしいと言うか、こそばゆい感じでした。

俄然やる気を取り戻した僕は、与えられた条件でどこまで何が出来るか考えました。そう、やはり自分の店を持つ事に拘りがありました。その為にはお金を借りなければならない。公的な融資を受けることです。しかし個人で一度断られているので、法人にするしかありません。しかも1円起業ではなく、ちゃんと300万円の資本を持った有限会社。  いろいろ計算してみました。養老保険は、保険として使われた分があり、残りは95万円でした。そして僕の手元にあった現金は40万くらいでしたか。交渉の末、無利子無期限で親から120万円借りました。計255万円。あと45万です。それと会社設立には全部書類を自分で作っても20万ほどかかります。と言うことであと65万。

そこで現物出資と言う方法を使いました。現物出資とは、その名のとおり物で出資するのです。僕の持ち物の車やパソコン、オーディオ機器などです。使えそうなものを全部現物出資として会社に納めることにしました。その合計、なんとたった35万円。勝手に値段は付けられるのですが、相場にあっていない場合はそれを指摘されるので、大体の相場の値段です。あとの残りはまあ、いろいろとかき集めました。

かくして、僕はやっと会社の設立に漕ぎつけたわけです。かなり無理やりと言えるでしょう。ここまで強引にやって来れたのも、沢山の方々が直接またはメールを通して応援して下さったからです。何人かの人はこの内容を読んで、「多少だったら投資しましょうか」とか、「知り合いのベンチャーキャピタリストに紹介してあげましょうか」とありがたいご提案を頂いたりしました。しかし他人様のお金を預かる事になると、逆に責任と不自由さが避けられないので、できたら自分のお金(借金)でやるべきなのです。でも、もし融資がうまく行かなかったらお願いしますと。

多分一人でやるぞと意気込んでも割にすぐ挫折してしまったに違いありません。逆に引けなくなってしまったのもありますが、それは僕がそれを選んだのです。

⇒その8に続く